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TITLE:コンセプトワーク-01
AUTOR:団長
DATE:2005/01/11(火)03:05


 俺の名前は、ジム=エバンス。今年は16歳になる予定だ。俺は今、大フィロソマーク帝国の片田舎にあるメトハススって村に住んでいる。
 親父は昔、流れの戦士だったんだが、20年くらい前にメトハススにこしを落ちつけたって話だ。今の親父はきこりをしつつ、村の警備のまとめ役みたいな事をしている。
 お袋はここの生まれだ。息子の俺が言うのもなんだが、美人だと思う。村長んとこのジョックに言わせれば、親父を仕留めた功労者ってことらしい。それが何のことか判らなかった餓鬼の頃、親父に聞いたら特大の拳骨を頂戴した。我が親ながら、あれは大人気なかったと思う。
 ともあれ、俺の両親はそんな感じだ。親父の腕っ節が強かったせいもあり、小さい頃から田舎にしてはそれほど不自由のない暮らしをさせてもらったと思う。メトハススの周りは森が深く、人間以外の勢力が大きい。だから、餓鬼から自然の厳しさを良く知ることは出来た。なにしろ、親父の仲間のきこりや狩人は、2〜3年に一度は森から帰ってこないし、村にいたって毎年一度は化け物に襲われたり、疫病がはやったりする。それでも村が続いているのは、街からの入植者が少しずつ来るし、ここが大都市と大都市を結ぶ路の一部だからだろう。
 何しろ、週に一度は旅人が通るし、商隊だって月に一度はここを通る。そいつらに、森で取れた毛皮なんぞを売ると割と良い値段になるらしい。親父の羽振りが悪くないのは、親父が熊を倒せるほどの猛者だからだ。もっとも、その猛者もお袋にはまったく頭が上がらないのが玉に瑕ではあるんだが。
 そんなわけでメトハススは危険も大きいが、真面目に暮らすんであれば不自由する場所ではなく、むしろ良い場所だ。俺はそう思っていた。だから、親父に剣を教わり、お袋に勉強を教わって、やがて大人になってここで暮らしていくんだろうと思っていたんだ。外の繋がりは、通りすがる旅人から聞く話しや、友達になった旅人とのちょっとした宝物の交換くらいだ。俺の作った木のお守りだけが、村の外に出て行くのだろうと、そう思っていた。

 あいつに会うまでは。

 そいつは、ボロボロの身なりで背も小さく、簡素な革鎧と短剣をもっていただけだった。村の外れであいつを見つけた時、てっきり化け物か山賊に襲われて逃げてきた旅人だと思ってた。だけど、そいつは旅人じゃなかった。そいつは、「俺は冒険者だ」と言った。俺よりも年下のそいつが、だ。
 そのとき、親父はついにこの時が来た、と思ったらしい。親父には、そいつに会った俺が、どうするか手に取るように判ったらしい。残念ながら、俺はその人の息子だった。だから、その人が予想したとおりになった。

 クフィルと名乗ったそいつは自分は冒険者で、盗賊の技に長けていると言った。自らを盗賊という間抜けを捕らえようとした俺を、親父は無言でぶん殴った。冒険者で、盗賊の技にたけているということと、盗賊であるということは違う事をその時の俺は知らなかった。ちなみに、それからしばらくした俺は、今度は盗賊の技に長けていることと盗賊をすることの境目が極めて薄いことを知らず、仲間から酷く怒られることになるのだがそれはまた別の話だ。ともあれ、クフィルは大都会ナックストンの生まれだそうだ。生まれてすぐに捨てられ、盗賊ギルドに育てられた筋金入りの盗賊だそうだ。もっとも、ナックストンではそういう奴は珍しくはないそうだが。
 盗賊といっても色々いる。本格的な悪党である強盗から、通りにいるスリ、乞食、詐欺師、なんでもござれだ。ちなみにメトハススにそういったものはいない。盗む物は殆どないし、人口100人そこそこの村ではすぐに見つかってしまう。つかまったらどうなるかは、村に押し入った強盗を黙って三枚に下ろした親父の所業を見れば一目瞭然だしな。
 話がずれた。盗賊ギルドで育った奴は専門的な盗賊になるのだそうだ。なんでも乞食にも専門スキルがあるそうなのだが、詐欺師やら開錠師やらのスキルは特に難しいのだそうだ。だから、幼少の頃から徹底的に仕込むのだという。クフィルは開錠師のスキルを身につけているらしい。ちなみに、そのスキルは折り紙つきだ。何しろ親父が大切に仕舞い込んでいた秘蔵の酒箱の鍵を開けちまったんだから。なお、それがバレた後の俺とクフィルの末路はここで言うまでもないだろう。オレモ、アレハ、オオクヲカタリタクナイ…。

 クフィルが、メトハススの近くに倒れていた理由だが、盗賊同士の内部抗争だったらしい。クフィルの親役だった盗賊が、クフィルの独立記念に一枚の地図をくれた。ナックストンの古い貴族の財産の一部を隠した洞窟に関するものらしいが、地図が半分かけていて良くわからないらしい。しかも、何処まで言っても所詮、財産の一部だ。クフィルの親父さんは、半分冗談で昔手に入れたその地図をクフィルにくれたらしい。クフィルもいつかそれを手に入れられればいいな、くらいのつもりでそれをもらったのだという。だが、そこで話は大きく変わってしまった。クフィルの親父さんは何者かに殺され、クフィルも殺されかけたのだという。地図を貰った事を酒場で自慢し、しばらくしてからそれは起こったらしい。なぜかは判らない。だけど、クフィルは地図を渡せといわれたらしい。だから、原因はそれしか考えられないと思う。だけど、これってチャンスでもある。この地図は、もしかしたら、凄いお宝のありかを示しているのかもしれない。俺はワクワクして来たんだ。

 ちなみに、自慢ではないが俺はかなりの馬鹿だ。なんというか、知性の回りが良くない。これは生まれて15年、ずっと自分を見続けた俺が言うんだから間違いなし、俺のお袋も保障しているから間違いない。ちなみに、お袋は何故自分の息子がこんなにも馬鹿なのかを悩んだ挙句、親父の責任に転化したようだ。いつも、それに何とか言い返そうとし、ケチョンケチョンにされる彼が哀れで仕方がない。だが、油断すると俺もその二の轍を踏むことになる。そこで諦めの良い俺は、賢い友を頼ることにしている。その賢い友がアージェンだ。
 アージェンと俺は世に言う幼馴染ってやつだ。アージェンは昔から賢い奴だった。もっとも、小ざかしい、とも言うが。昔から、あいつが策を練り、俺が実行し、二人で怒られる、というのが黄金のパターンだった。
 アージェンは三つの時に、ゴーレのおっさんに貰われた。あいつの本当の親御さんは化け物に襲われ、重傷を負った状態お袋さんがあいつを抱えてこの村に逃げてきたんだ。化け物は親父と、数人の村人で撃退した(親父でも倒せなかった!!)そうだが、親御さんたちは助からなかった。それで、あいつはゴーレのおっさんに貰われたんだ。ゴーレのおっさんは親父の古い友人で術者だ。いかつい顔の禿頭だが、その術は確かに凄い。嵐や日照りをピタリと当て、病や怪我に適切な薬を作ってくれるし、村を守る結界を管理しているのもおっさんだ。あと、俺たちに文字や歴史を教えてくれたりもする。アージェンは昔から頭が良く、今はゴーレのおっさんの助手の真似事もこなしている凄い奴だ。顔も良く、優しいから女の子にももてるが、どうも自覚がないらしい。もったいないことだ。クフィルのことをアージェンに相談した。すると、アージェンは真面目な顔で俺に冒険者になるつもりはないかと聞いてきた。

 冒険者!自分の腕を頼みに一攫千金を目指す者たち!!

 アージェンはずっと昔から、こんなチャンスを狙っていたらしい。俺も応えた。決まっているだろう?ワクワクを満たしてくれる方法を、アージェンが教えてくれたんだから。
 両親に冒険者として旅に出たいと言った夜、親父は黙ったままで、お袋は泣きながらビンタをかましてきた。やがて、親父は俺に一つの条件を出してきた。その条件とは親父の代わりに村の近くの洞窟に住み着いた化け物を撃破してくることだった。それはゴブリンリーダーと呼ばれている種類の化け物だ。そして、数匹のゴブリンを連れているらしい。俺は、一も二もなく了解した。
 結局、俺の冒険者としての第一歩は、俺、アージェン、クフィルに弓も薬もできる狩人のジョックに警備隊に雇われている流れ戦士のソーンの5人で踏み出すことになった。ジョックは村長の四男坊(直ぐ上の兄貴は去年、森で行方不明になっちまったが)で村を出たがっていたし、ソーンは(もっぱらの噂では失恋して)そろそろ別の村に移るつもりだったからだ。
 くだんの洞窟は村から1日半ほど歩いたところにある。ジョックとソーン、クフィルは半日も在れば行けると言ったが、それは奴らの足が変だからだ。普通は屈強な男でも1日半はかかる。俺たちは大事をとって2日かけて洞窟に行くことにした。食料は向こうでの分も含めて1週間分を持つことにした。親父の勧めで乾パンや干し肉と、乾燥野菜のチップを用意した。当然水も持つが、一週間も放置すると水は腐るので2日分だけだ。それ以上は途中で確保しろと親父に言われた。水の確保はジョックに任せよう、多分俺には無理だ。
 鎧と剣、盾は親父のお古を貰った。ヘルメットとブレストプレート付きのハードレザーアーマーにブロードソード、ラージシールド。当然、小手と脛宛も金属製だ。サイドアームズは愛用のナイフと万能工具の手斧。あとは、何かの役に立ちそうなロープと袋、松明を幾許か持った。ほくち箱は諦めた。小遣いが足りなかったし、ほかの皆が持っていたからだ。俺がもってなくても問題はない、はずだ。あと、お袋がマントと毛布をくれた。…すごく暖かくって、そして、本当に旅に出る実感がして少し怖かった。

 出発の朝、親父が無理はするなと言ってきた。多分、俺はそれを聞き流していた。だって、親父と一緒にゴブリンを倒した事は何度もあるし、ホブゴブリンとだってやりあったこともある。だけど、本当の冒険の怖さなんてまったくわかっていなかった。初めての野営まで大したトラブルはなかった。途中、狼を見かけたがやり過ごすことが出来たし、問題はなかった。野営は日が傾く前に準備を始めたので驚いたが、確かに日は傾き始めたら直ぐに暗くなった。ソーンとクフィルが手馴れた手つきで野営の用意をしてくれた。その間、アージェントは近くの薬草を見て回り、俺はその護衛をしていた。ジョックはちょっとした食料を調達してきてくれたので、食事はいつもよりも豪華なくらいで、体力も気力も回復した気がする。アージェンが何か香を焚こうとしていたが、それはソーンが止めた。なんだかよくわからんがまだ、もったいない、との事だった。夜は3交代制で見張りを立てた。俺はアージェンと、クフィルはジョックとで、ソーンは1人だった。キャンプみたいで少し楽しかった。そう、2日目にあったゴブリンたちとの遭遇まで、本当に、なにも分かってなかったんだ。俺は、その日、この世界の仕組みを始めて目の当たりにした。そして、本当に冒険者になった。
 違う、戻れなくなったんだ。日常に。




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