連邦軍のMS5体からなるウィッチブルーム隊の作戦目標はマスドライバーの破壊であった。先ほど対物破壊のプロフェッショナルクーロン・スタットボルト少尉が打ち込んだ攻撃。それにより、マスドライバーの破壊は間近だった。そこに隊長のセイ・ヤタガミ大尉のRGM-79SCの長距離からスナイパービームライフルが閃く。誰もが、マスドライバーの爆発を確信した。しかし、爆発は手前で起きた。防衛任務に付いていたジオン軍教導団MS-06-Rのうち1機が身を挺して庇ったのだ。着弾から一瞬の間をおき、大爆発が起き、四散するMS-06-R。本来ならば華麗に回避し、ウィッチブルーム隊を苦しめる筈のMS-06-Rは、今は単なる盾となっていた。続いて、ディーノ・マクラクラン中尉が攻撃するが、これもMS-06-Rが身を挺して止める。このMS-06-Rも爆散する。3機いたMS-06-Rも、残るは隊長機のみ。イリヤー・ラリオノフ一等准尉の攻撃も、隊長機が身を挺して止めた。隊長機は、全身に銃弾を浴びながらも何とか踏みとどまった。そこにコガ・マツナガ少尉が飛び込んでいった。機体性能で考えれば、圧倒的にコガが有利であった。RGM-79GSにマグネットコーティングを施した彼の乗る機体は、目の前のMS-06-Rなど問題にしない。敵の隊長は彼の叔父だ。コガは今は連邦軍人だが、元はジオンの市民で、亡命して今の位置に来たのだ。たしかにパイロット技量の面では、コガは、MS-06-Rに乗る彼の叔父に劣るかもしれない。しかし、情勢は全くコガに傾いていた。RGM-79GSは目前のマスドライバーのレールを破壊すればよく、MS-06-Rはそれを守らねばならない。RGM-79GSの火器が火を噴くたび、身を挺してレールを守るMS-06-Rの体は吹き飛んでいく。MS-06-Rは速さを身上とした機体だ。それが彼の叔父の技量と相まって、手ごわい敵となっていたのだ。ところが今は、止まった目標であるレールを撃てばそこに相手が飛び込んでくる。もはや技量などの入り込む余地はないのだ。当初は3機いたMS-06-Rも既に叔父の一機のみ。同じくYMS-14は既に武器を全て破壊され、戦闘不能だ。コガはかつて自分を鎧袖一触で蹴散らした叔父が満身創痍でレールを庇う様に堪え様ない愉悦を感じていた。一方的な勝利は目前だった。「オジキ、これを防げるかよ?」レールを支えるフレームにめがけ、コガは笑いながら無造作に弾をばら撒く。「…慢心するなよ」そう呟き、MS-06-Rは一瞬の迷いもなく、レールとコガの間に身を躍らせる。遂に四散するMS-06-Rをコガは幻視するが、吹き飛んだのはYMS-14だった。その機体に乗ったパイロットは、自らが庇った機体にただ後を託し、その身代わりとなって爆散した。残ったのは、やはりボロボロのMS-06-Rと、マスドライバーのみだった。今度こそ、MS-06-Rは最後の一機となったのだ。「オジキ、無様だなぁ」にやける口元を隠さず、さらにコガはマスドライバーに火器をばら撒く。「マスドライバーはスペースノイドの財産。やらせはせん…後に続くもの達のために!」再び躊躇なく飛び込んだMS-06-Rは今度こそ爆炎に包まれた。あっけない最後だった。後には、ただ無防備なレールだけが残った。まともに戦えば、十分に生き残れるだけに技量を持った男を、やすやすと倒せた事に満足し、コガは我知らず笑みをこぼす。そして、今度こそレールを破壊しようと銃を構えるが、異変はその時に起きた。レールが沸騰するように吹き飛んだのだ。彼がまだ引き金を引いていなかったにもかかわらず。それと同時に突如としてコガの機体の周囲に発生した強力な電場が、機体と彼自身を焼いた。「貴方の闘い方、効率がいいですわ。私、大好きですわ」敵の援軍が到着し、コガのRGM-79GSをプラズマリーダーが襲ったのだ。そして、MS-06-R達が身を挺して守ったマスドライバーも、彼らの友軍であるその援軍…ヴァルヴァロが焼いたのだった。突然の敵の援軍に、混乱するコガは僚機に乗る相棒のイリアに状況を確認する。この時、コガは作戦説明を聞き違えており、敵の援軍が迫っている事を、味方の援軍が近づいていると勘違いしていた。コガの勘違いに気付いたイリアは慌てて情報を整理し、コガに伝えた。しかし、それは遅すぎた。コガとイリアは敵陣に切り込みすぎていた。もう一機の僚機であるクーロンの機体は少し離れていた上、すでに推進剤を使い切り、合流は困難だった。ヴァルヴァロは危険な敵であることを熟知しているコガは相棒のイリアに後退を促し、単機でヴァルヴァロに立ち向かった。イリアの後退の時間を稼ぐためだった。そして、コガは自分が生きて帰れるとは、すでに思っていなかった。普段ならば8割は成功する防御機動でヴァルヴァロに爪をいなし、その懐に飛び込もうとするコガ。しかし、マスドライバー破壊のために慣れない月面に降りていたコガは不運にもそれを失敗し、メインモニターを破壊される。それでもコガは巨大なヴァルヴァロに懐に飛び込み、その攻撃を封じようとした。さらに爪が振るわれる。コガは再び防御機動をとり、そしてこれも失敗した。今度の失敗は先ほどメインモニターを破棄されたためだった。引き裂かれる機体とその破壊音に包まれながら、コガは自分の死を理解した。何とかなるかもしれないと思ったが、やはりならなかった、ただそれだけだった。普段ならば耐えられる怪我だ。しかし、それは先ほどのプラズマリーダーがなければの話だ。電撃で脆くなっていた毛細血管が一斉に爆ぜ、コガの意識を激痛の紅さから虚無の白さに変えていく。「闘い方に、貴賎はある」それは、相棒のイリアの口癖だった。コガは、マスドライバーを守ると言う任務のために命をかけて援軍到着までの時間を稼いだ彼の叔父の戦いは貴いと言える気がした。それに対し、コガ達を倒すと言う任務のために、味方も、スペースノイドの財産であるマスドライバーをも破壊するヴァロヴァロの戦いは賎しいと感じた。では、マスドライバーを破壊するために自分達のした戦いの貴賎は、どうだったのだろうか?その結論を得る前に、コガ・マツナガの意識は白い闇に没し、永遠に失われた。時に0079.10.26。後に一年戦争と呼ばれる戦争の終わるは、その2ヶ月以上も先のことである。
[Root]コガ・マツナガ少尉、戦死(0079.10.29月面アンマン市)---2007/01/16(火)00:06---団長
`---RE:例会の感想とお礼、そしてお詫び---2007/01/16(火)00:30---団長
`---RE(2):例会の感想とお礼、そしてお詫び---2007/01/18(木)23:11---厨房長
`---RE(2):例会の感想とお礼、そしてお詫び---2007/01/17(水)20:13---特攻隊長
`---RE(3):組み合わせ爆発に注意---2007/01/18(木)00:34---団長
`---確認---2007/01/17(水)09:49---LOST
`---RE:確認---2007/01/17(水)23:57---団長
`---RE(2):例会の感想とお礼、そしてお詫び---2007/01/16(火)23:43---皇子
`---RE(3):コメントつれづれ---2007/01/18(木)00:44---団長