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TITLE:アナザー・センチネル[10] 前編
AUTOR:団長
DATE:06/11(月)01:49


第2章その2.墓所の悪魔の再臨、あるいは過去からの帰還者

 宇宙歴0088.06.24 PM09:00。釜山近郊。
 爆音と共に一機のGMIIIの頭部ユニットが吹き飛んだ。
 山腹に巧妙に隠されたMS用ハッチを開こうとした瞬間に飛び出したコイルボムがその機体の頭部に巻きつけられたのだ。さらにモニターを破壊された機体に向かい、周囲の岩塊が射出される。岩塊はMSの装甲を破るほどのものではないが、数個の岩塊内に張り巡らせられたワイヤーが岩を錘としてそのMSの自由を奪う。
「電磁誘導式のコイルボムに即席ボーラか。味なまねをする」
 ハウンドはいまいましげに呟いた。
 6機のGMIIIを率いてシース隊の潜伏場所を調査していた彼は思わぬトラップに足を止めた。彼自身はMSに乗らず指揮車から様子を伺っていたが、どうも廃棄工場の裏山に掘り込まれた格納庫にはシース隊特製の罠が満載されているらしい。それらの多くはMS用であるらしくハウンドの部下たちはGMIIIによる探索は無理であるとハウンドに報告した。
 彼としても無意味な損害は望むところではなく、また多くの場合MS用に罠を張る場合は人間には手薄になりやすいであろうと判断し、彼が1人で侵入し調査することになった。彼の部下らは同行すると主張したが、単独の潜入に長けた彼とは異なりパイロットを主たる生業としている彼らを連れていくことをハウンドは承諾しなかったからだ。
 潜入用の装備を纏うと、彼の心は指揮官から破壊工作員のそれへと変貌していく。薄笑いを浮かべ、彼は構造物内へと進入した。
 薄笑いの意味は簡単だ。罠があるということは重要なものが隠されているという目印なのだから。

 宇宙歴0099.06.24 PM10:12。釜山近郊。
 ハウンドが侵入してから一時間が経とうとしていた。
 GMIII隊は相変わらず周囲を警戒していた。指揮官がいない今、彼らとしては非常に動きにくい立場にいるに違いない。訓練されたはずの陣形もやや乱れがあった。
 そのためだろうか。彼らは一瞬対応が遅れた。その攻撃が遠距離からのビームキャノンであることに気づいた時には既に最初の犠牲者が出ていた。
 延べ20平方キロメートルを超える廃棄基地の外延からいくつかの建物をぶち抜いて突き刺さったビームの本数は4本あった。連続して降り注いだビームのシャワーは頭部を失ったGMIIIの装甲を容易に打ちぬきすさまじい熱を撒き散らし、瞬く間にそれを物言わぬ残骸へと変化させたのだ。
 GM達は慌ててそちらの方にシールドを構え、斜を描くように防御陣形を構成する。さらにレーダーが強化された機体は周囲を走査し、いくつかの機影を発見するが、警告を発する直前にその機体に短い円柱から三本の長いブレードのついた凶器が突き立ち、やはり一撃の元に沈黙させられる。先ほどの攻撃は陽動だったのだ。別の方から凄まじい速度で迫る機影は、まるでMS−09を彷彿とする、そのパイロットの見た事の無いものであった。GMの戦術コンピュータの表示も「Unknown」であり、情報が無い。そして、その情報不足が招く危険とは、即ち敗北だ。戦術コンピュータの指示に慣れたパイロットはその指示に従い、攻め、守り、そして勝つ。したがって、その指示が誤っていた場合、すなわち謎のMSがサーベルの基部を構えた瞬間にその射軸上に警戒信号を発したにも関わらず、「その基部の両側から」メガ粒子が発信された場合、彼はなすすべも無く切られるしかなかった。誘爆し、砕け散るGMを尻目に次の機体に迫る謎の重MS。
 新たな情報が入力された戦術コンピュータは直ちに情報を修正する。しかし、その機体の「袖」が開き三連ガトリング砲が火を吹くのを、やはり予測できなかった。モニターが割れる。投擲用ブレード、ダブルビームサーベル、ハンドガトリング。コンピュータはさらに新しい情報を入力し最適化する。接近武装の多い機体に対しては距離を稼ぐ。それがセオリー。
 しかし、下がった瞬間にそのGMIIIは打ちぬかれた。
 なぜならこの機体もビームランチャーを隠し持っていたからだ。爆発するGM。これで3機を瞬く間に倒してしまった。
 そのパイロットは失望と虚しさを隠せなかった。
「連邦の兵の質はここまで落ちたのか…。コンピュータの指示従っているうちは私は倒せない。死にたくなければ”黒い巨神”を渡してもらおう」
 仮面の下で、彼はそう静かに言った。その頬には酷いやけどがあった。

 宇宙歴0099.06.24 PM10:21。釜山近郊。
 戦闘開始から、約10分の間に、6機いたGMは2機にまで落ちた。一方、突如現れたMS−09に似た機体は1機でその場を支配していた。彼の仲間には最初に攻撃を行ったMSが2体ほどいるらしい。それらの機体は黒く、大きな流線型の肩と大きな腰装甲を持つ見なれない機体だった。また、戦線は膠着していた。なぜなら、戦力で勝る側が積極的攻撃を行わず、「黒い巨神」とやらの引渡しを要求しているためだ。
 しばらくの、沈黙。
 しかし、静寂とは騒乱と騒乱の間にある息継ぎに過ぎない。その言葉を証明するかのごとく、戦場にかけつけたものがいた。その男の名はアリス=ジェファーソンであった。
 アリスの百式はその時点で既に悲惨な状態だった。無理な起動と無茶な発進、そしてここまでの無謀な移動。百式の燃料は既に底を尽き、戦える状態ではなかった。しかし、彼はこう叫んだ。
「この中にライアという男がいるはずだ!一年戦争でビグロに乗っていた奴だ!俺はアリス、アリス=ジェファーソンだ!!」
 仮面の男は少し悩んだ。そして、他には聞こえないように、ぼそりと呟いた。
「所詮、血塗られた道か。それともあの男は私を止められるかな?」




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