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TITLE:アナザー・センチネル[10] 後編
AUTOR:団長
DATE:06/12(火)02:13


 陸戦用百式改の速度はGMIIIのそれを軽く二倍は上回る。
 ブースターのプロペラントこそは切れているが、アリスは自らの身体が悲鳴を上げるのも構わずさらに脚部にカロリーを廻す。脈動する脚部シリンダーは限界を超えて伸縮し、そこから生み出される地を蹴る力のベクトルは暴れ馬のそれであり、火器管制にフル稼働するコンピュータはそれを抑制することでしか制御できない。しかし、アリスにとっては、荒れ狂う力をそのまま活かし、動きをなすことこそがMSに乗るということだった。熟達した演奏者が楽器をかき鳴らすが如くレバーを細やかに、しかし、大胆に制御する。そこから生まれる動きは通常の規格からは遥かに外れている。
 アリスの乗る百式はアスファルトを抉りながら一気に戦線に到達する。それを押さえるように前に出たGMに素早く右手のライフルを打ち込む。MSの動きから計算される射軸から飛びのき、そのメガ粒子の洗礼をかわそうとしたGMIIIの右腕が爆発する。
 ビームが直撃したのだ。
 そのGMのパイロットであるハウンドの部下は何が起きたか分からなかったようだが、アリスが目指していた重MSに乗る仮面のパイロットは違っていた。
「回避運動を見越した、『ずらした』攻撃か。相変わらずできるな」
 男が予想した通り、アリスはその経験からMSの動きを読み、射撃できる。その読みはランダムな要素を持つはずなコンピュータサポートによる避けをほぼ無効にする。熟練のパイロットのほとんどには出来ることではあるが、コンピュータには未だ実現できていないことであり、また、アリスはその中でも際立って優れた予測技術を誇る。
「邪魔をするな!無駄死にしたいか!!」
 射撃で怯んだGMを押し退け、重MSに迫る百式。それはかつてアリスがはじめてMSで戦った相手に酷似していた。
「あの時はおまえはドムだったな!そして俺はGMだった!お互い立派になったじゃないか」
 外部スピーカーを割れんばかりにかき鳴らし、迫る百式を、重MSは無言で迎え撃つ。アリスは突撃する直前で、左手首からグレネードを射出し、先制攻撃を行う。重MSは難なくかわすが、周囲の建物が盛大に吹き飛び煙幕となる。重MSは持ち前のホバーで一気に煙幕を抜けようとするが、ホバーが吹き上げる風のせいで煙幕はその重MSにまとわりつく。牽制のために袖のガトリングを放つが、アリスは余裕を持って回避し、腰溜めのスタイルで3連ミサイルポッドをフルバーストする。煙幕のため回避が遅れた重MSにミサイルは命中するが、その重装甲はびくともしていない。
「相変わらず、堅いな!」
 さらに踏み込もうとしたアリスに後方からビームが飛ぶ。黒い流線型の機体たちが攻撃を行ったのだ。2撃のうち、片方は回避するが、もう一方は避けきれず百式の背中を焼く。若干の追加装甲はあるとはいえ、もともと耐久力に欠ける百式は瞬く間に中破に追いこまれる。しかしアリスは止まらない。
「ちっ!相変わらずの部下連れか!」
 後方の機体とは距離をとりつつライフルを乱射する。再び重MSは被弾するがやはりダメージはない。僅かなところで致命弾を避けているのだ。
「くそっ!だんまりかよ!何とか言ったらどうなんだ!!」
 絶叫する、アリス。
 突然の返答があった。重MSが通信で答えたのだ。
「相変わらずの突出癖だな。あの時、お前がザクに向かっていかなければ、『結果』は違っていたのではないかな。何も学んでないのか。一年戦争でも、火星圏での戦いでも!」
 アリス絶句した。しかし、確信した。この男はライア・ケルビンハウアー。
 ア・バオア・クーでアリスのRX−79(GS)を撃墜し、隊長のエセルバートを戦死させた男だと。

 宇宙歴0099.06.24 PM10:25。釜山近郊。
「おい、飛行機のパイロット!百式が見えたぞ、戦っているぞ!」
「こちらでも確認した。アルフレート君、投下する。宜しく頼む」
 アリスを追いかけてきたシンのストライクワイバーンとアルフレートのジャジャは戦場の上空に到着していた。眼下ではアリスが孤立無援の戦いを繰り広げている。戦っている相手は、連邦のGMIIIと、そして信じがたいことにネオ・ジオンのドライセンとキュベレイMk-IIだった。
 考えるより早くストライクワイバーンより飛び降り、ライフルでアリスを援護しながら着地する。そして周囲に外部スピーカーで絶叫する。
「なぜここに我が軍の新型がいるのだ?!私はネオ・ジオンのアルフレート=クロイツ少佐だ。この地区は我が隊の管轄のはずだ!!」
 ビュオンという音と共にサーベルを発生させ、ドライセンに突きつける。ドライセンは刹那の迷いの後、返答した。
「我々はザビ家直属の特殊部隊だ。故あって貴校が奪われたギガンテスの回収に来た。分かったならば速やかに剣を引かれよ」
 アルフレートは、その声に聞き覚えがあるような気がした。懐かしい声であるような。しかし、彼は自分の任務をジオン軍人の誇りにかけて忘れるわけにはいかなかった。
「そのような命令は私は聞いてはいない。そちらこそ下がってもらおうか?」
 ドライセンのパイロットは軽く苦笑した。まるで、あの日のア・バオア・クー宙域に戻ったかのようだ。あの頃のヒヨッコが一端の口を利くようになっている。
 再び戦場は停滞する。
 その時、アリスの百式改の背後に突如閃光が煌いた。
 爆音と共に崩れ落ちる百式。さらにその足元にゴドンッという音と共にMSの頭部ほどの大きさの円盤が転がった。
 その円盤からはワイヤーが伸びており、そのワイヤーは岸壁のMSハッチから伸びていた。
 続けざまにMSハッチからビームが打ち出され、MS用トラップを破壊しながら一体の白いMSが表れた。
「ふん、重力圏ではやはりインコムユニットなど使い物にならないか。まぁ、良い。思いのほか面白いものも手に入ったしな。」
 百式から脱出したアリスが見た、MSハッチから現れた白いそれは、紛れも無く、ガンダムだった。
 そして、そのガンダムは片手にカプセルのようなものを抱えていた。
「ガンダムがこんなところに…」
 アリスは思わず呟いた。その顔は先ほどまでの何かに追い詰められたような切迫感は無く、ただ憧憬の念があった。
 それはアリスが久しく忘れていた顔だった。




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アナザー・センチネル[10] 前編---06/11(月)01:49---団長

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