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TITLE:アナザー・センチネル[11]
AUTOR:団長
DATE:07/10(火)01:30


第2章その3.特務小隊のMSマニアの復活、あるいは友情と愛情と任務の狭間における内的葛藤

 宇宙歴0088.06.24 PM10:26。釜山近郊
 アルフレートのジャジャの目前で百式改が爆音と共に崩れ落ちた。彼には何が起きたのか、一瞬理解できなかったが、それは超至近距離からのビームガンの直撃によるものだった。それを認知できなかったアリスの百式改は為す術なく撃破されたのだ。
 アルフレートにはその経緯は分らなかったが、アリスが撃破されたことだけは分った。そして、アリスを撃破したのが、岸壁のMSハッチから現れた白いMSであるということも分った。そして、一瞬の間思考が停止した。
 何故ならそれが、白いMS、ガンダムだったからだ。
 冷静になれと自分に言い聞かせるアルフレート。
 アナハイムから受領したMSの中にガンダムタイプがあるのを彼はよく知っていたはずだ。
 それがガンダムMk-IVであり、低重力下での戦闘を念頭に作られたものであることも良く知っている。
 しかし、それが動き、アルフレートに敵意を向けている事実に、彼は震撼していた。

 アルフレートはその白いMSを見たことがある。
 それは悪夢のようなア・バオア・クー脱出戦の時であった。
 当時ジオン公国の一学徒兵に過ぎなかった彼は、ゲルググBに乗りア・バオア・クー防衛戦に参加していた。
 しかし、歴史書にある通り、総大将ギレン・ザビを失ったジオン公国は独立戦争に敗れ、兵士たちは再起を賭けてア・バオア・クーから脱出していた。そして彼、アルフレート=クロイツも数人の同僚と共に戦線離脱を試みた。
 もっとも、既に尽きかけた推進剤に言うことを聞かない程に被弾した機体の彼らでは脱出は絶望的だった。そんななかで彼らを助けたのが、ライア・ケルビンハウアー少佐率いる小隊だった。
 当時ケルビンハウアー小隊も満身創痍の状態にあった。しかし、ビグロとザクFZからなるその小隊は、ビグロの推進力を生かし、連邦の残党狩りに一撃離脱を繰り返すことで彼らの気を引き、残存ジオン兵力の脱出を援護していた。
 そして、彼らが最後に戦ったのが連邦軍のエセルバート小隊だった。ライアは丁度エセルバート小隊とケルビンハウアー小隊の戦闘の隙を縫って脱出した。エセルバート小隊に突入していくビグロをアルフレートはよく覚えている。伝え聞いた話では結局、ケルビンハウアー小隊とエセルバート小隊は相打ちになり、アルフレートはそのおかげでアクシズに逃げ延びることが出来たのだ。そして、そのエセルバート小隊にいたのがガンダムだった。
 アルフレートはガンダムがどのような働きをしたのかは見ていない。しかし、自分たちを逃がしてくれたライア少佐を屠ったのがガンダムである、との印象は拭い去れないものとなっていた。

 不意に、ガンダムが上空に向ってビームキャノンを発射した。
 その音で、アルフレートは辛くも意識を取り戻した。しかし、意識を取り戻したとはいえ、アルフレートは普段から直情型である。したがって、この時アルフレートがとる行動は一つしかなかった。
 すなわち、ガンダムへ突進である。彼はビームサーベルを発振させ、絶叫を上げながら切りかかっていった。

 同刻。釜山近郊
 ハウンドは目まぐるしく変わる機体バランスを横目で眺めつつ、戦況を見渡す。
 彼が基地内で見つけた、このガンダムMk-IVは、どうも月面を想定して設定されたMSであるらしく、地球の重力環境にはまったく合わせられていない。各所の兵器も真空から極めて大気を想定されており、照準もめちゃくちゃである。安定した性能を重視する彼には非常に不満なMSであった。そもそも、ハウンドにとってガンダムタイプなど御輿であるべきで、自分が乗るようなMSではないのだ。
 しかし、彼はこれを使うしかなかった。
 なぜなら、今ガンダムが小脇に抱えているカプセルをなんとしても確保する必要があったからだ。
 基地内で発見したカプセルの名はアスタロス・コクーンという。
 アスタロスとは一年戦争末期にジオン公国が開発した細菌兵器である。そして、アスタロス・コクーンはそのアスタロスを生産する為の独立稼動型のプラントである。実のところこの時代、宇宙世紀0079年に勃発した一年戦争以降は、MS開発に新規開発技術の大多数がつぎ込まれた結果、それ以外はあまり発達していない。それどころか、0079年の戦争による混乱から若干の低下を招いてすらいた。このアスタロス・コクーンもそういった技術の一つであり、0088年にアスタロスを生産する為の機能と抑制するための機能と保存する為の機能の複合を実現するには再度の研究データが必要になってしまっていた。
 もしも、この技術を地球連邦が手にするならば、いつでも自由にコロニーに対し細菌爆弾を発射することが可能な無人の宇宙砲台を作成することも可能である。それは地球連邦にとって、コロニーの暴徒に対する大きな抑止力なることは間違いない。
 だからこそハウンドは彼の主義に反するMSに乗ってまでこのカプセルを確保したのだ。
 したがって、彼のこの場での判断は簡単だ。

 何にも優先し、カプセルを戦場から離脱させること。

 ただ、それに尽きるのである。
 重力に引かれ地面に落ちたインコムユニットは、目の前の百式を倒せただけで良しとし、あえて無視する。そして、自分をガードするように展開するGMIIIの一機にカプセルを渡し、離脱を指示する。そして、自分は前に出る。
 このMSで地上戦を行なうことの不利は承知だった。しかし、彼は迷わなかった。何故なら彼は『ハウンド』だからだ。

 宇宙歴0088.06.24 PM10:27。釜山近郊
 アルフレートにとってガンダムがGMにカプセルを渡した瞬間は絶好のタイミングだった。しかもあのガンダムは陸戦用ではないことをアルフレートは知っている。
 突進の勢いをそのままに、GMの前に出たガンダムに向かいビームサーベルを一閃する。
 しかし、ガンダムはよろけながらもその一撃をサーベルで切り払う。さらに頭部のバルカンを発射し距離を取ろうとする。
 しかし、ジャジャの装甲をバルカンが叩くことなど気にはせず、足元のインコムユニットのワイヤーを踏み、ガンダムの動きを止める。
 相手の思いもよらぬ行動にハウンドのガンダムはさらにバランスを崩す。そこへビームサーベルを叩き込むアルフレートのジャジャ。耳障りな破壊音が響き、ジャジャのサーベルのメガ粒子がガンダムMk-IVの胴体を掠める。熱せられた重粒子が胴体を深く抉る。そして、それがハウンドにとっては不幸なことにコクピットの真上だった。
「くっ、おのれ…」
 重粒子の飛沫とショートした機器で火傷を負ったハウンドは思わず口を開く。ガンダムMk-IVのコクピットブロック周辺の装甲は無残に引き裂かれ、その衝撃でコクピットハッチは半開きになっている。
「…これ以上の戦闘は無理か」
 ハウンドの判断は早い。MSを自動操縦モードにすると、躊躇なくガンダムを乗り捨てることを決断する。
 自動操縦で敵の目の前に歩かせ、わずかでも時間を稼ぐ。そして自分は歩兵としてゲリラ戦を行なう。それがハウンドの考えだった。ハウンドはコクピットからロープを射出し、MSハッチに器用に括りつけ、そこを支点に振り子のようにMSが飛び降りた。
 アルフレートからもパイロットが脱出する様子は見えたが、彼はパイロットを射殺する気にはなれず、ガンダムを迂回してGMに追いすがろうとする。しかし、背後からのビームキャノンの一撃がその考えを打ち砕いた。脱出したパイロットを狙撃するその一撃は、ガンダムMk-IVの腰アーマーを吹き飛ばした。ハウンドは持ち前の身のこなしで辛くも難を逃れたが、爆風に煽られ、吹き飛ばされる。
 轟音を立て、倒れる白いMS。思わずアルフレートは叫び、ジャジャを振り向かせた。
「何故撃った!重傷を負っていた、直ぐに戦場には復帰できない人間を、わざわざ殺すことはないはずだ!」
 そこには、ビームを発射した余熱も冷めずに煙をあげる黒々としたビームキャノンを構えたキュベレイMk-IIがいた。彼女は何も答えなかった。それどころか、銃口をジャジャに向ける。
「やろうというわけか。いいだろう、MS戦闘というものを教育してやる!」

 宇宙歴0088.06.24 PM10:31。釜山近郊
 仮面の男には刹那の躊躇があった。口元が歪む。何らかの葛藤が垣間見える。
 彼は自分が既に死んだ男だと思っている。ア・バオア・クー脱出戦のおり、エセルバート小隊のコアブースターの特攻でビグロを撃破された時に自分は死んだのだと。
 だから、彼はアクシズの正規の軍には属していない。
 あの時、宇宙空間を彷徨っていた彼を救った旧ジオンのNT研究所の食客と言うのが彼の今の身分だ。食客と言えば聞こえは言いが、ようは私兵である。彼が自分のことを卑下していたとしても仕方がないことかもしれない。
 その男は自らの現在の主を嫌悪すらしている。未だにMSに乗るのはおそらく死に場所を求めているからだろう。他に望みも使命も無かった。しかし、いまアルフレートとあのキュベレイmk-IIを戦わせることは許されないことだと、彼は思った。
「お前を、あのMSと戦わせるわけにはいかんな」
 静かに呟くパイロットにあわせ、ホバーを噴出し突進するドライセン。アルフレートのジャジャのサーベルを切り払う。
「くっ、邪魔をするなぁ!!」
 絶叫するアルフレート。切り払われたサーベルから手を放し、頭部のバルカンで相手を牽制し、次のサーベルを腕に構える。その隙をつき、キュベレイとジャジャの間にドライセンが滑り込む。
「お前達は戦ってはならん」
 静かに言い放ち、ビームナギナタを一閃する。それを受けとめるアルフレート。その時アルフレートには今度こそ、そのパイロットが誰なのかが分かった。
「貴様…いや、あなたは…ライア少佐なのですね…しかし、何故?」
 動きが止まるジャジャ。
 そして、ドライセンの後ろでは先ほどのキュベレイが冷静にビームキャノンの照準を合わせていた。閃光が、煌く。
 一瞬の時間の停滞の後、ジャジャは光に貫かれ、爆発した。

 同刻。釜山近郊
「んふっふっふっふ」
 爆発に煽られたハウンドは、意識を取り戻した。
 どうやら自分は若干の間意識を失っていたことに気づく。
 さらに、目の前に誰かがいることにも気づく。
 しかし、再び意識を失った。
 何故なら、鳩尾に強烈な蹴りを食らったからだ。
 一体誰だ…そう警戒しながらも、彼の意識は再び暗転した。

 ハウンドに蹴りを加えた男は彼の手からワイヤーを奪い取った。ワイヤーの先はまだコクピットに固定されていることを確かめる。そして、満足そうに呟き、未だ自動操縦のままゆっくりと進むガンダムを見上げた。
「やっぱり、ガンダムってのはこうやって奪い取って乗りこむもんだよな」
 不敵にそう言い、ワイヤーにMS搭乗用の滑車を取り付けガンダムMk-IVのコクピットに向かい、手馴れた手つきで乗りこむ。
 コクピットはリニアシートで、乗りなれたアナハイム式の操縦系統であることを確認する。
 コクピットハッチは無く、機体の各所のランプも綺麗に赤い。
 しかし、己がガンダムに乗りこんだことの高揚感に比べれば、それらは大したことではない。そして、この高揚感は戦後に、試作ガンダムに乗りこんだ時には感じなかった感覚だと、彼は思う。
 彼は理由を考えた。
 しかし、直ぐにその思考は止んだ。
 彼は一度目を閉じる。
「考えるまでも無いな。無断で乗ったガンダムに、敵はアイツだ…」
 そして、ある種の喜びが湧き上がるのを感じる。
 やりなおす。
 かつて犯した、取り返しのつかない失敗を取り返すために。
 俺は再びガンダムのコクピット(ここ)に来た。
 かつて、0083年にマリアに対して感じた懺悔の念ではなく、己が再び己に戻るための決意。
 ア・バオア・クーの戦いで止まった己の時間を再び回らせるために。
 迷いは無い。エセルバート隊長への償いでも、シャアへの義理でもなく、己自身のために。
 アリス=ジェファーソンは目を開けた。
「いくぞ、ガンダム!」
 我知らず、笑みがこぼれる。
 アリスがこんなにもMSに乗るのを楽しいと感じたのは、あのエセルバート特務小隊での日々以来だった。




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アナザー・センチネル[11]---07/10(火)01:30---団長

 +-re(1):拝承---07/11(水)01:11---団長

 +-やらして---07/10(火)23:46---皇子

 +-re(1):アナザー・センチネル関係者向け---07/10(火)01:39---団長


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