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TITLE:アナザー・センチネル[12]
AUTOR:団長
DATE:07/21(土)20:42


アナザー・センチネル[12]
第2章その4.追放の巨神の奪取、あるいは二人の戦士の時を動き出させるための偶発的な再戦。

 宇宙歴0088.06.24 PM10:34。釜山近郊
 仮面の男の駆るドライセンの前で、アルフレートの駆るジャジャが仰け反り、その半身が爆発する。
 辛うじて原形をとどめていはするが、戦える状況にはない。
 それにもかかわらず、そのキュベレイmk-IIはジャジャに第二射を叩き込む。
「止せ!!」
 仮面の男のドライセンはアルフレートのジャジャを庇おうとするが間に合わない。しかも、その声には諦めすら入っていた。彼は知っているのだ。
 自分の速度では、キュベレイのパイロットのそれに決してかなわないと言うことを。
 キュベレイのパイロットが狙いを外さないことを。
 しかし、男の予想に反してジャジャにビームは命中しなかった。
 なぜなら、突然地滑りのような音を立て、ジャジャが転倒したからだ。
 ジャジャは何者かに足元を掬われたのだ。
「インコム?」
 仮面の男が呟いた。
 MSの転倒のために巻き起こった砂煙の中から引き出されたそれは、先ほどジャジャがガンダムmk-IVを引き倒すのに使用したインコムだった。今度は、それがジャジャを引き倒したのだ。
 インコムはその基部のインコムランチャーのリールの回転力で本体へと引き戻されていく。
 インコムが引き戻される先にいるのは、戦場の誰もが既に動かないと思っていたガンダムであった。
 大破寸前のその機体から、威勢の良い声が響く。
「おいおい、アルフレート!戦闘中にぼっとするなんざ、お前らしくないぜ?」
 ガンダムのパイロット、アリスは楽しそうにそう言った。ハッチの壊れたコクピットで、妙に風が心地よかった。

 宇宙歴0088.06.24 PM10:36。釜山近郊
 仮面の男は8年前を思い出していた。連邦の試作MSの輸送阻止の任務についたとき、彼はドップのパイロットをやっていた。その後、連戦していくうちにやがて新型MSであるMS−09ドムを与えられた。そして、その機体で初めてやりあったのが、目の前の男の乗るMSだった。
「エセルバート小隊の…ガンダムエース…」
 仮面の男は思わず、声を洩らす。
 彼の頭から、アルフレートのことも、そして「強化人間の少女兵」のことも抜け落ちる。
 ふっと薄く笑ったライアは視界を妨害する仮面を剥ぎ取る。火傷の薬を塗布してある仮面を失った彼の顔の表皮はその主人に痛みを訴える。しかし、ライア・ケルビンハウアー元少佐はそれに構わない。エセルバート小隊のガンダムエースと戦うためには僅かな死角も命取りになる…、そう考える思考回路は忘れていた刃物のような気迫を長期メモリーから引っ張り出してくる。すっかり錆付いているかと思われていたそれは、主の意に反して殺人兵器だけが持 つことを許されたある種の怜悧な美しさを放っている。
 我知らず、笑みがこぼれる。
 あのMSをここで潰しておくことの有効性は高い。
 しかし、あれほどの手負いであるにも関わらず圧倒的なプレッシャーを感じる。
 下手をすれば「P・P」を失う危険性すらある。
 冷静な判断を下す。
「あのパイロットが来た以上、ここを制圧するのは無理だな。アレの回収も必要だ。
 P・P共、引くぞ」
 ドライセンはブースターを一気に吹かし、後方に飛んだ。

 宇宙歴0088.06.24 PM10:37。釜山近郊
「ちっ、相変わらず逃げ足は速いな!」
 後ろに飛んだドライセンにアリスが激昂する。
 幾つかの計器に目を走らせるが、それらすべてが立つのが精一杯であることを示している。
 見れば、僅かに出来たこの間隙に連邦のGMIIIの生き残り達も戦場から離脱しようとしている。味方は、転倒したジャジャと上空のシンのみ。
 シンは不思議と先ほどから攻撃に参加していない。
「…副長?どうして攻撃しないんだ?何時もの逃げ癖か?」
 不信に思い、シンに通信を送るアリス。
 しかし、シンの答えは意外だった。
「アリス…、本当にあの丸っこいMSを攻撃していいか?
 …よくないと、思う」
 妙に歯切れが悪い。
「なんだかそれは良くわからない。
 でも、あれはマリーのワルキューレのように感じる」
 アリスはその答えを聞き、相手がニュータイプであるのかと予想した。しかし、それを言うより先にシンはそれを察し、答えを返す。
「ニュータイプでは、ないと思う。
 もっと別な…うっ!!」
 シンのストライクワイバーンが機体のバランスを崩す。
それと同時に、先ほどまでドライセンに従い引き上げ様としていたキュベレイがシンに向かいキャノンを乱射してくる。紙一重の所でシンはかわすが、キュベレイは憑かれたようにビームを乱射する。
「オマエ、ザラザラする!!」
 シンには確かに少女の叫びを聞いた。
 それに気を取られた瞬間、遂に被弾するストライクワイバーン。それでも乱射するのを止めないキュベレに、さらに追加攻撃を受ける。
「副長!!」
 アリスは叫ぶが、ガンダムMk-IVは思うように動かない。
「クソったれがー!!」
 叫ぶと共にブースターの限界を無視して噴射する。しかし、コンピュータがはじき出した推力と重量の比較ではガンダムを予定の位置まで運べない。しかし、アリスは操作を止めない。
「重いっってんだよぉ!、何のためのムーバルフレームだ!!」
 ムーバルフレームは装甲と機体中枢を完全に分離している。アリスはその構造を良く知っている。それゆえに、「こういった真似」ができるのだ。
 そう、アリスはガンダムの外装を全て排除したのだ。重量が軽くなり、ブースターの推力がガンダムを大地から強引に引き剥がす。
「いっけー!!」
 残ったプロペラントをすべて使った突進。アリスは突進の勢いをそのままに、剥き身のMSとなったガンダムをキュベレイに叩きつける。元来、重量級のMSであるガンダムmk-IVは容易くキュベレイを吹き飛ばすが、無理な機動を行った上に、装甲を失ったせいでバランスを崩しているガンダムはそのまま大地に倒れ付す。それに対してキュベレイは素早くアポジモータを噴射し、バランスを立てなおしガンダムを狙う。今のガンダムには装甲がない。一撃でも受ければそれが致命傷ともなりかねない。コクピットハッチすらない状況ではアリスの命すら危うい。
 しかし、キュベレイはビームキャノンを発射する前に背後から「蹴り」を受け、再び転倒した。
「アリス、無事か、アリス」
 場にそぐわない妙に、のんびりとしたシンからの通信が入る。いまキュベレイを「蹴った」のはワイバーンのテールスタビライザーだった。シンは、急旋回時用の簡易ムーベルフレームで稼動するテールスタビライザーを器用に振り回し、キュベレイを打ち倒したのだ。もっとも、当然無理な動きのせいでワイバーンも大きくよろけ、アフターバーナーで強引な上昇を行う。
「副長、なんで撃破しないんだよ!」
「アリス、やはり、どうもアレを攻撃するのは良くない、感じがする」
「そーゆーことを言っている場合かぁっ!!」
 アリスが絶叫する間に、立ち直ったキュベレイが再びワイバーンを狙う。
「ちくしょぅ!!!」
 アリスは先ほど手繰り寄せたインコムを腕部ユニットで強引にキュベレイへと投擲する。インコムは狙い過たずキュベレイのビームキャノンに命中し、その射撃をそらす。
「やったぜ!…って、オイ、ちょっとまて」
 そして、当然のことながらキュベレイの目標は地面に這いつくばったまま自分の邪魔をしてくれたガンダムへと変更された。
「ま、待ちたまえ。お互いに話せば分かり合えると、だな」
 わけのわからないことを口走りながら、残った僅かなプロペラントで強引に移動しようとする。しかし、そう言った動きで万全のキュベレイから逃げ切れるわけはなく、瞬く間に右腕と左足を打ちぬかれる。そのガンダムを庇う様に地表寸前を低空飛行してくるワイバーン。
「アリス、下がるか組み付くかしろ、危ないぞ」
「できるんだったら、とっくにやってるわ馬鹿野郎!!」
 間抜けなやりとりを無視し、キュベレイは一瞬ワイバーンに怯むが、すぐにキャノンの狙いをガンダムに戻す。しかし、その隙にアリスは一つの策を思いつく。
「副長!!こっちに!」
「おぅ」
 答えるなりシンはワイバーンを20世紀の技術者が見たとしたならば卒倒するような、空力を無視した動きで地表をすべるようにガンダムへと向かわせる。アリスはその機体にインコムを投げつける。
「受け取れ!!」
 航空機に向かって無茶を言うアリス。
「うむ」
 無茶を言われたシンはそれを無理で返す。機体の上下を反転させ、前方から投擲されたインコムを空母へのランディング時に使用するフックに引っ掛ける。一瞬の撓みの後にガンダムmk-IVが地面を滑走し始める。いや、滑走などという立派なものではない。単に引きずられているに過ぎない。しかし、怯まない。
「副長、このままいくぜ?!」
「心得た」
 以心伝心。
 シンはアリスが考えた無謀な策を躊躇なく実行する。ワイバーンがガンダムを引きずらる先にいるのは、…キュベレイ。
「MSの構造上、核融合炉は……この辺だろうなぁ!」
 ワイバーンはキュベレイをまわるように旋回する。それに引きづられたガンダムは当然キュベレイに衝突する。そして、ガンダムは唯一の残っていた武器、ビームサーベルを構えていた。

 宇宙歴0088.06.24 PM11:03。釜山近海上の豪華客船
「P・Pを一体、失ったか」
「申し訳ありません。全ては指揮官である私の責任です」
 その客船は既に煙を上げ、ジオンに占拠された状況にあった。その船上いるのは先ほどのドライセンであり、先の会話はそのなかでライアが行った通信だった。
「かまわんよ。どうせアレはもう長く持たないタイプだ。それよりも私にはお前が包帯を外していることの方が気になるな。お前が本気になるほどの相手がいたのか。」
「はっ、いかに連邦が惰弱の徒であろうとも一部に優れた戦士がいることは否定できません故に」
「まぁかまわんさ。アスタロス・コクーンの奪取に失敗したのは痛いが、お前のもともとの任務はギガンテスの回収だ。それを成し遂げれば文句はない」
「恐れ入ります」
 通信機の向こうにいたのは金髪の少年だった。ライア=ケルビンハウアーは現在、彼に忠誠を誓っているのだ。少しの間、ライアはため息をついて、通信を終えた。後ろに付き従うキュベレイのパイロットは相変わらず終始無言だった。
 ライアはそれを見て再びため息をついた。自分は確実に腐ってきている。しかし、ここで歩みを止める訳には行かない。
 彼はそこにはいない、誰かに向かって一人、呟いた。
「ギガンテスはオリンポスを終われた巨人。
 すなわち、お前たちが地球圏から追放したあの機体だという事を忘れるなよ」
 答えは、ない。




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アナザー・センチネル[12]---07/21(土)20:42---団長


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